猫を起こさないように
日: <span>1999年1月17日</span>
日: 1999年1月17日

ドラ江さん

 「ドラ江さ~ん、助けてよ~」
 「なんや、騒がしいの。いまワシは、久遠の絆のプレイに大忙しなんや」
 「助けてよ、ドラ江さん! イデオロギーが崩壊してどの価値観も間違いじゃないんだ。いったい何を信じたらいいのかわからないんだ。曖昧な現実が不安なんだ。もしかしたら、みんなぼくより優れているかもしれないんだ。いつものように決めうってよ。言葉で現実を虚構化して、ぼくを安心させてよ!」
 「おまえまたそんなこと言うとるんかいな。繊細さをウリにする時代はもう終わったという話やで。これから求められるのはスーパーマッチョや。新井英樹の漫画みたく生きてみんかい。まァ、ええわ。ほな、いくで。一回しか言わへんから、よぉ聞けや。『ああっ女神さま』『守って!守護月天』 この二つを読んでるヤツは、まさに人間のクズや。間違いなくおまえより立場が低い。こりゃもう、無条件で見下してええ。恋緒みなとの漫画に共感するヤツも同様や。さ、どや。これで少しは楽になったやろ」
 「ありがとう、ドラ江さん! 気持ちが楽になったよ! 他人と自分の位置が明確に把握できるようになったよ! さあ、さっそく本屋に行って確かめようよ!」
 「待て待て、ワシもかいな。ワシは忙しいって言って、ちょぉ待てや」
 「いたよ、いた、ドラ江さん! 守護月天を全巻まとめ買いしてるよ! あっちではアフタヌーンを立ち読みしている……ビンゴォ、女神さまだ! クズだよ、ここはクズどもの見本市だ! 低脳どもめ、白痴どもめ、けけっ、けけけけけっ」
 「よかったの」
 「お客様、たいへん申し訳在りませんが、店内での喫煙は禁じられておりますので」
 「ああ、こりゃすまんこって」
 「ねえ、ドラ江さん」
 「なんや。もう気がすんだか。帰ろや」
 「ラブひな読んでるヤツがいたんだけど」
 「いちいち確認しに来な。クズや」
 「よかった、やっぱりそうなんだ。あっ、見てよ! 恋緒みなとの単行本を購入しているよ! この世はやっぱりどうしようもないクズばっかりなんだね! 低脳どもめ、白痴どもめ。けけっ、けけけけけっ」
 「――でもな、のび太。一番どうしようもないのはたぶんおまえ自身なんやで――」
 「あいつ、あれでうっかりインターネット始めたり、ホームページ作ったりするんだぜ。いったいその薄ら笑顔で何を期待してんだろうね、現実でうまくいかないヤツは、ネットでだって受け入れられるわけないじゃんよ。場所を変えりゃいいと思ってんだ。自分を客体化できないところに原因があるって、少しも理解できてないんだぜ。けけっ、けけけけけっ」